【朗読劇】だというのに‥‥謎の【立ち稽古】が進んでおります、
『楽屋』です。
【劇場】というのは、【夜の世界】です。
外がどんなにお天気の真昼でも、真っ暗な空間を作り、そこに照明を足していって
ひとつの世界を光りの中に浮かび上がらせる。観客は少し暗い客席から、それを
見つめる。
その関係で、舞台袖というのも、暗いです。そこからカーテンを引いた向こうに、
劇場の楽屋はあります。
楽屋に窓がある劇場というのもたくさんありますが、わたしだけかも知れませんが、
楽屋というのはどうも、【夜】を宿した劇場と繋がった世界のように感じます。
しかし、そんな世界を構築するべく集まる稽古場には窓があるわけで。。
昼の稽古と夜の稽古では、やっぱりどうしても、雰囲気が違う!
どうも見ていると、夜の稽古の方が、作品の世界に入りやすい。
そして昼の稽古の方が、演じ手本人の呼吸や機微が、瑞々しく役に浸透しやすい。
作品世界と、呼吸や機微と。
どちらも研ぎ澄ませながら、ホンに書かれた言葉と、演じ手それぞれの中とそして
彼女たちの間に流れるものを、共に呼吸させてゆく作業。
ずっと探していた手がかりが、どこからともなく「うわっ!」と突然、でも完全な
形で目の前に出現する瞬間もあったりして‥‥わくわくします♪
これと同じくらいの、或いはそれ以上の、わくわくを提供できたらいいなぁ‥‥。
この日は、新しいわくわくもありました!
今回、ヴァイオリンの演奏をしてくださる、馬江尚子さん。
(『楽屋』に参加いただけることになった経緯は、
吉沢梨絵Pのブログに詳しいです)
尚子さんがこの日、わたしが今回この作品にどうか。。と考えている楽曲を、初めて
弾いてくださいました。
実は今回、生のヴァイオリンの演奏というたいへん贅沢な要素を作品に入れられる
ことがわかってから、しばらくのあいだ物凄く身構えるわたしがいました。
「ヴァイオリンのソロ曲についての知識なんかないし、たくさん聴いて勉強して、
楽曲を選ばなくては。。」と。
実は今回使いたいと考えている曲は、昔から大好きな曲でもあり、かなり早い段階から
イメージだけは頭にチラついていたのでした。
でも、何となく。。
自分の好きな曲を選んではいけないような。。
もっと色んな選択肢から選ばないといけないような。。
そんな風に気負っては、しばらくモヤモヤしていました。
しかしある時、「こんなチャンス二度とないかも知れないのだから、後悔のない
ように一番【これだ!】と思った曲にすればいいじゃないか!」と思いたち。
そうやって提案してみた楽曲を、尚子さんはこの日の稽古の終わりに、弾いて
くださったのでした。
‥‥そしたら、何のことはない!即決です。
今回の舞台で尚子さんに果たしてほしい【役割】が元々あったのですが、それを
説明せずとも、その楽曲を弾く尚子さんは、その【役割】を体現していて。
かくして、ピースがまた一つ、収まるべき場所に収まったような気がします。
ところで、尚子さんのヴァイオリンを聴きながら、わたしはあることを思い出して
いました。
今回の作品の中心にいる吉沢梨絵さんとも、尚子さんとも、出逢うきっかけとなった
舞台『ルドルフ ザ ラスト キス』。
2012年7月に帝国劇場で上演されたこの舞台でわたしは演出家の通訳兼
アシスタントをしていたのですが、観るたびに毎回楽しみにしていたヴァイオリンの
ソロ、というのがありました。
たくさんのものに阻まれてもがき苦しんできた恋人たちの想いが、とうとう溢れて
こぼれて、二度と離れない誓いの歌を歌う。その【溢れてこぼれる】想いを、
『ルドルフ』ではヴァイオリンのソロが表現していたのでした。
ここで再び、出逢うことが。
二人、抱き合えることが。
こんなに尊いと思える、こんなラブ・ストーリー、今まであっただろうか!
‥‥と、毎回毎回、聴きながら涙が溢れる一瞬だったのです。そのヴァイオリン・ソロは。
「もしや」と思い、この日の稽古の帰り道、尚子さんに聞いてみました。
‥‥やはりでした。やはりこのソロを弾いていたのは、他でもない、尚子さんその人!
この一瞬にかけたこだわりも、弾いていたご本人から聞くことが出来て、もう何重もの
幸せを感じてしまいました。
今回『楽屋』で使用する楽曲が、とてもヴァイオリン・ソロに向いた曲だ、という
ことも教えてもらって。
昨年7月に毎日のように溢れていた想いが、1年近い時を経て、また巡ってきたような。
とても不思議な感覚に襲われました。
『楽屋』を構成するピースが、少しずつ、集まってきている。そう感じます。
薛 珠麗(せつ しゅれい Shurei Sit)