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薛 珠麗(せつ しゅれい)のブログ
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# 「現在」は走り続ける。(追記)(拍手コメント返信を再び追記)
先週末の、2012年4月14日と15日。
タイタニック号が沈没してから、ちょうど100年の時が流れた。

映画『タイタニック』は3Dにお色直しして公開中であるし、
記念航海や追悼式典が企画され、ドキュメンタリーが放送されたりと
様々なイベントがある中で、実に面白かったのが twitter 上の
「100年後の実況」であった。

まず、タイタニック公式アカウント(@RMS_Titanic_Inc)。
次に、歴史関係の出版社が企画したアカウント(@TitanicRealTime)。
そして、沈没地点に近いノヴァスコシアにあるノヴァスコシア博物館の
アカウント(@ns_museum)。

公式アカウントは
「4月14日午後11時40分。見張りからブリッジへ、目の前に氷山が
迫っていると緊急連絡」
というふうに、「タイタニックに何が起きたか」を日時入りで次々と
順番に、そして淡々とツイートしていく。

「リアルタイム」と題されたアカウントが最もドラマティックで、
出航前、出航、各寄港地での様子、船上の様子などを、色々な視点を
織り交ぜて「実況」していた。「船長」「乗組員」「エンジニア」
「バンドマスター」「一等船客」「二等船客」「三等船客」或いは
氷山衝突後は「カルパチア号(生存者の救出に向かった船)などと
ありとあらゆる角度から、まるでそれこそ戯曲か映画のように、
タイタニックの出航前から沈没後までの人間ドラマを、辿ることが
できる。

ノヴァスコシア博物館はまた少し趣向が違い、タイタニックを中心にした
周囲の船舶の無線通信記録だけを、「100年後のリアルタイム」で
ツイートしていく、というものだった。

そう、つまりそれぞれの趣向、それぞれの視点から「リアルタイム」に
「実況」されるタイタニック沈没のドラマを、きっかり100年後を
生きるわたしたちにしか感じられない臨場感を感じながら辿り、大いなる
運命のいたずらと様々な人生を飲み込んだ悲劇を偲ぼう、ということ
なのである。

映画『タイタニック』が航海いや公開された当時、関連した展覧会に出かけたり
関連図書を読んだりして少なからず興味があるわたしは、大喜びでこれらの
アカウントをフォローし、刻々と迫る運命へのカウントダウンを追っていた。

しかし、大西洋上を西へと進むタイタニックが氷山に近づくにつれて、
あることが引っかかり始める。

「時差」である。

公式アカウントはアメリカ。
リアルタイムアカウントはイギリス。
ノヴァスコシア博物館はカナダ。

そしてタイタニックが沈んだのはイギリスとアメリカの間の大西洋の、
カナダに最も近いポイントである。

氷山衝突は「4月14日午後11時40分」であるから、普通に考えれば
日本では翌15日の昼間になる計算だ。

リヴァプール、サウザンプトン、シェルブール、クイーンズタウンと
追い続けた身としては、氷山衝突から沈没までの2時間40分を
見逃すのは、実に惜しい。
しかも、欲をいえば、最もドラマティックなリアルタイムアカウントで
沈没に立ち会いたい!

何時に twitter をチェックしていればいいかを知りたくて、それらの
「実況」が日本時間と何時間違いで動いているかを調べてみた。

公式アカウントはツイートの中に日時の表記があるので簡単だった。
出航の時から、日本時間とはきっちり13時間違いで時間は流れている。
つまり、氷山衝突時刻は15日午後12時40分。

リアルタイムアカウントが謎だった。日時の表記がないためだ。
ネットで拾った「タイタニック沈没までの出来事とその日時の表」と
睨めっこしながら時差を割り出そうとしても、どうもよく対応しないのだ。
おまけに、これはXデーが近づくに従って明らかになっていたことでは
あったのだが‥‥リアルタイムアカウントと公式アカウントでは時間の
流れがかなり違う!事実、調べた時点で公式はまだ昼間のようなのに、
リアルタイムの方はもう夕食直前だった。

わたしはネット上で「世界各地の現在の時間」のページを探したりして、
どうなっているかを理解しようとした。

twitterで検索してみると、同様の疑問が世界中からリアルタイムアカウントへ
寄せられていたのだった。

「タイタニックの氷山衝突は今から何時間後?」

しかし、いくら調べても、はっきりした答えはどこにも書いていない。

愛好家が作ったらしい「カウントダウン時計」というものまでネット上に
みつけたが‥‥そこに刻まれた時間は、「分」のケタがわたしのパソコン上の
時計と対応しない!

そこで、疑問は一つの質問に集約する。

「午後11時40分って‥‥どこ時間?」

思えばタイタニックの沈没地点、どちらかといえばカナダに近いとはいえ、
大西洋のかなり「真ん中」的な位置である‥‥。

改めてリアルタイムアカウントを辿ってみると、何回か「タイタニック船上の
時計を修整」のツイートがあったのだった。

そう。

大西洋上を東から西へ移動しているタイタニック上では、飛行機のように
急激でなくとも、時間が少しずつ後ろにずれているのだ!
西に移動するにつれて、タイタニック上の時計は30分ずつずらされていたの
である。

つまり、公式はヨーロッパを出航した時点から日本とは13時間違いで運行して
いたが、それだと twitter 実況を追う身にとってはわかりやすくとも、実際の
タイタニックとはずれがあったのだ、厳密に言えば。

ちなみに、出港地ロンドンと辿り着くことのなかった目的地ニューヨークでは
時差が5時間ある、と「世界各地の現在の時間」サイトにはある。

‥‥いやちょっと待て。

それは「現在」の話だ。

1912年時点でのタイムゾーンは一体どうなっていたのか‥‥!?

しかも、「世界各地の現在の時間」サイトには「サマータイム」という表示が
はっきりと出ているではないか!

‥‥1912年に「サマータイム」の制度は施行されていたのか‥‥!?

‥‥クラクラする頭でノヴァスコシア博物館アカウントを見てみたら、どうやら
そこも公式とは時間設定が違っているようだった。

おまけに、ノヴァスコシア博物館アカウントがツイートしている「無線記録」と、
関係者たちの「主観的ツイート」で出来上がってるリアルタイムアカウントでは、
照合するのに適した出来事が殆どない。

タイタニック上では、一等船客たちの「タイタニックなう」「大西洋なう」の
無線連絡を送受するのに忙しくて、周囲の船舶からの氷山警告の通信は
きちんとブリッジに届かなかったのだ。それがタイタニック事故の原因の一つ
であったわけだから、リアルタイムツイートと無線記録ががっちりと合致するのは
氷山衝突後、というわけだ。

‥‥もう、絶望的である。

しかしノヴァスコシア博物館サイトをうろうろしていて、一つ収穫があった。

タイタニックの氷山衝突時刻も沈没時刻も、大西洋上に1時間でなく30分
刻みで区切られたタイムゾーンで設定された、とのこと。

そしてそれは「ニューファンドランド時間」であるという!

‥‥やった!

じゃあそれが、「世界標準時間」であるイギリスの時間(ちなみにイギリスは
現在もちろんサマータイム採用中)、あるいはわたしがいるこの日本の時間と、
何時間違うのか!?

つまり、今から何時間後に、タイタニックは氷山に衝突するのか!?

意気揚々と「ニューファンドランド時間」を調べると、そこにはやはり
「現在サマータイム」の文字が‥‥!

‥‥もう、嫌だーーーーっ!!!

そう思ったまさにその瞬間。

リアルタイムアカウント上のライトラー航海士が、見張り番に
「夜の間、氷山に注意するように」と指示を出した!

手元のタイタニック時刻表でも、リアルタイムアカウントでも、
それは記載されている!
そしてそれは「1912年4月14日午後9時半」のことである、と!

何と頼れる男なのだ、ライトラー‥‥!
ありがとう、ライトラー‥‥!

時に、日本時間2012年4月15日午前5時半のことであった。

同じく「実況」と銘打ちつつも、公式アカウントとリアルタイムアカウント
では、実に5時間ものずれが生じていたわけだ。

タイタニック号が氷山に衝突する、2時間10分前。
ようやくわたしは、100年前の大西洋上を西へと突き進むタイタニック号の
「現在」を、捉えることができたのである。

タイタニック号の見張り番が氷山の姿を捉えたのはまさに目の前に
迫ったその時で、回避はもはや不可能だったと言われるが、わたしも
ネット検索能力を駆使してすら、2時間前までキャッチできなかったのである。

普段わたしたちは「時」をずいぶん固定されたもののように考えているが、
それはとんでもない間違いなのではないか。

タイタニック号の右舷を氷山がこすっていった、まさにその瞬間。
この日本にその時暮らしていたわたしの(母方の)先祖が何時の時間を
生きていたのか。

正確なところは、結局、わからないのではないか。
2つの異なった時間が生きていた「現在」を正確に照合する手段は、
100年後のわたしたちには、多分、ないのである。

「現在」はそれぞれの場所で、それぞれの時間の流れの中で、走り続けるのだ。

「現在」の捉え難さ。
「現在」がすれ違ってしまえば、お互いを再び捉えることが如何にややこしいか。
「現在」を誰かと共有できる、そのことの奇跡。

twitter という同時性、臨場感を感じる場で100年前の出来事の「実況」を
「リアルタイム」で追いながら、そんなことを思ったのだった。



2012年4月20日 追記:


映画の『タイタニック』。

あれも、思えば「1997年」というタイミングでしかあり得ない映画だった、と
この記事を書いてから思ったのだ。

大西洋の底、およそ4000メートルの水深に眠る船体の残骸を撮影するための
潜水/撮影技術の成熟と、生存者の年齢設定。その2つが兼ね合うのは、まさに
その瞬間だけであったかもしれない。

ヒロイン=ローズ、事故当時17歳。
映画の舞台となった1996年には、101歳。

ぎりぎりである。

言い換えれば、100周年の今、「生存者が記憶を語る」物語は、もはや
不可能になったのだ。15年という時間は、実はそれほどまでに大きい。

しかも、映画『タイタニック』は、自ら探検家として数々の潜水の実績も持つ
ジェームズ・キャメロン監督が自ら開発させた撮影機材を駆使して臨んだ
撮影であった。

のちに同じキャメロン監督が手掛けた『アバター』は、やはり監督が自ら開発に
関わった3D撮影技術による撮影だったわけだが、この時も「監督は本当なら
『タイタニック』を3Dで撮影したかったが、開発が間に合わなかった」という
逸話がまことしやかに語られたものだった。

そして、タイタニック100周年の今年。
3D撮影をされていない映画を3Dに加工する、という荒技で、キャメロン監督は
100周年を飾った。タイタニック100周年の日、3D版『タイタニック』は
世界中で公開されていた。3D加工にかかった費用は1800万ドルだそうだ。
2012年4月20日のレートで換算すると、約15億円になる。

「タイタニック」という存在と、これと見込んだ対象のためならどこまでも情熱を
注ぎ込めてしまう男との出逢いもまた、「走り続ける【現在】」の中で、希有で
運命的な出逢いだったのだろう。

ちなみに、若い世代の中にはタイタニック沈没を「実話」とは知らなかった
人も多くいたのだそうだ。「あれは映画のお話じゃないの?」と。

時間はどんどん、走り続ける。



薛 珠麗(せつ しゅれい Shurei Sit)


以下に、拍手ボタンにいただきましたコメントへの返信を追記しております:




きーささま


twitter でも返信しましたが‥‥

「Time is money」も「Time is gold」も冗談じゃない!(日本語では
どちらも兼ねるというこの不思議 笑)実際は「Time is life」ですよね!!!

命なきものでも「歴史」という人生を生きますものね。。なぁーんて。
でも本当にそうです。時を刻む、即ち呼吸そして鼓動‥‥ではないかと。

でも本当なんですよねぇ。Time zone なんて何よりもまず、政治的なもの。

謎と興味と面白さと。

コメント、ありがとうございました!


薛珠麗
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